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東京地方裁判所 平成元年(ワ)4095号 判決 1991年1月29日

原告 新井信

右訴訟代理人弁護士 今泉政信

被告 鷹野告夫

<ほか二名>

右三名訴訟代理人弁護士 仁平勝之

同 富永豊子

主文

一  原告が、別紙物件目録一記載の土地について、通行権を有することを確認する。

二  被告らは、原告が、別紙物件目録二記載の土地から約二〇メートル北東の私道の地中に埋設されている公共下水道に排水管を連結するため、別紙物件目録一記載の土地中に、内径約二〇センチメートルの排水管を、地下約一メートルの深さで設備することを妨害してはならない。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

主文同旨

第二事案の概要

一  (本件に関係する土地の所在は、いずれも東京都江戸川区江戸川一丁目である。そこで、ある土地を特定するときには、同所の摘示を省略し、単に地番のみを、例えば、八番五七(の土地)、8―57などと掲記する。)

本件に関係する土地の位置は、別添公図写しのとおりである。

原告は、別紙物件目録二記載の、八番四、八番六二の土地(以下、原告所有土地という。)を所有している。

被告鷹野は、別紙物件目録一記載の八番五七、八番六〇の土地を、被告後藤は、同目録記載の八番五六の土地を、被告大山は、同目録記載の八番五八、八番五四の土地を、それぞれ所有している。

二  原告は、原告所有土地は袋地であるとして、囲繞地の一部である被告ら所有土地について、通行権を主張し、かつ、被告らに対し、被告ら所有地下に下水排水設備をすることの受忍を求めている。

第三当裁判所の判断

一  まず、原告の通行権の主張につき判断する。

1  原告所有土地は、別添公図写しのとおり、八番五、八番九、八番一七、八番二二、八番五〇、八番三、八番六一の土地に囲繞されているが、

八番五の土地は須賀正夫の所有

八番九、八番一七の土地は高橋和男(昭和六一年七月一日以前はその親族)の所有

八番二二の土地は高橋豊(昭和五七年一二月五日以前はその親族)の所有

八番五〇の土地は浅野利光の所有

八番三の土地は株式会社三和建設(以下、三和建設という。)の所有

八番六一の土地は被告鷹野の所有

であって、原告所有土地は袋地である。

2  原告所有土地が袋地になった経緯等につき、原告本人の供述によれば、次のとおり認められる。

(1) 原告は、不動産業、建設業をしており、主として住宅建設を業とする三和建設の代表者及び主として不動産業を営む株式会社三和土地建物(以下、三和土地建物という。)の経営者(現代表者)である。

(2) 八番三及び八番五一ないし六〇の土地は、もと分筆前の八番三の土地を構成していた。

八番四及び八番六一、六二の土地は、もと分筆前の八番四の土地を構成していた。

右分筆前の八番三の土地及び分筆前の八番四の土地は、いずれも、もと須賀光男の所有であった。

(3) 須賀光男は、昭和五五年二月五日、三和建設に対し、分筆前の八番三の土地を、代金三七〇〇万円で売った。

これにより、分筆前の八番四の土地(原告所有土地と八番六一の土地)は袋地となった。

(4) 須賀光男は、昭和五六年二月一七日、分筆前の八番四の土地から八番六一の土地を分筆し、同年七月二五日、八番六一の土地を被告鷹野に売った。

これにより、原告所有土地は袋地となった。

(なお、《証拠省略》によれば、須賀光男は、昭和五六年五月三〇日、分筆前の八番四の土地からさらに八番六二の土地を分筆し、原告に対し、同日、分筆された後の八番四の土地を、さらに、昭和五八年八月三日、新たに分筆された八番六二の土地を売ったこと、これにより、原告は原告所有土地を所有するに至ったことが認められる。)

3  原告所有土地が袋地になった以降の経緯等につき、原告本人の供述及び弁論の全趣旨によれば、次のとおり認められる。

(1) 三和建設は、八番三の土地を宅地造成し、分譲することとした。

三和建設は、右分譲にあたって、後記のとおり、八番三の土地から分筆された土地のうち八番五六ないし五八、八番六〇の土地を幅員四メートルの舗装道路(いわゆる私道)として開設した。また、八番三の土地から分筆された八番五四、八番五五の土地も道路(私道)部分として整備した。

(2) 三和建設は、昭和五五年八月一日、八番三の土地から八番五一、八番五七の土地を分筆し、八番五一の土地上に建物を建築した上、これを同年一〇月八日、代金二六〇〇万円で被告鷹野に売り渡した。なお、八番五七の土地は私道として分譲された。

(3) 三和建設は、昭和五六年二月一七日、八番三の土地から八番五九、八番六〇の土地を分筆し、これを同月一二日、代金三一五万円で被告鷹野に売り渡した(但し契約書上の売主名義は三和土地建物)。なお、八番六〇の土地は私道として分譲された。

(4) 三和建設は、昭和五五年八月一日、八番三の土地から八番五二、八番五六の土地を分筆し、八番五二の土地上に建物を建築した上、これを昭和五六年八月三日代金二五〇〇万円で三和土地建物に売り渡し、さらに三和土地建物は、これを同月四日、代金二六〇〇万円で被告後藤及び後藤賢治に売り渡した。なお、八番五六の土地は私道として分譲された。

その後、八番五二、八番五六の土地の後藤賢治の共有持分は、財産分与を原因として被告後藤に移転された。

(5) 三和建設は、昭和五五年八月一日、八番三の土地から八番五三、八番五四、八番五八の土地を分筆し、八番五三の土地上に建物を建築した上、これを同年九月一日代金三二〇〇万円で被告大山に売り渡した。なお、八番五四、八番五八の土地は私道として分譲された。

(6) 被告らは、八番六〇、八番五八、八番五七、八番五六の土地及び八番五四の土地を通路として使用している。

また、被告らは、昭和五五年八月一日、八番三の土地から分筆された、三和建設所有の八番五五の土地をも通路として使用している。

原告所有土地から公路に通じるには、現況道路である八番六〇、八番五八、八番五七、八番五六の土地を通行するのが自然である。

4  以上認定の事実によれば、2(3)(4)の時点で原告所有土地は袋地となり、分筆前の八番三の土地に対する通行権を取得したが、その後の右八番三の土地の分筆、分譲の経過からすれば、原告所有土地が、八番六〇、八番五八、八番五七、八番五六の土地に囲繞地通行権を有することは明らかといわなければならない。

八番五四の土地は、原告所有土地から、直接公路に通じるために必要とされるものではないが、その分筆、分譲の経過及び三和建設所有の八番五五の土地を含めた現在の使用状況等に照らせば、原告は、八番五四の土地についても囲繞地通行権に準じた通行権を有するものと判断するのが相当である。

5  被告らの主張につき判断する。

(1) 被告らは、原告所有土地は建築基準法上の接道義務を満たしていないので、建築は許可されず、建物建築を前提とする囲繞地通行権は認められない、と主張する。

しかし、民法上の囲繞地通行権の有無自体は、建築関係諸法とは直接関係しないというべきであるから、右主張は理由がない。

(2) また、被告らは、三和建設は、八番三の土地を分筆して、被告らに分譲した際、八番六〇、八番五八、八番五七、八番五六の土地は被告らのみが通行するものであり、右土地につき、原告所有土地のため通行権を主張することはない旨確約していたのであるから(当時、八番六〇の土地と原告所有土地との間は、ブロック塀が設置されており、通行ができない状態であった。)、三和建設の代表者である原告が、囲繞地通行権を主張することは、信義則に反し許されない、と主張する。

そこで検討するに、被告大山本人は、被告らが三和建設から本件各土地を購入した際、三和建設は被告らに対し、原告所有土地のために八番六〇、八番五八、八番五七、八番五六の土地を通行することはない旨確約したと供述し、《証拠省略》によれば、右当時、原告所有土地と八番六〇の土地の間に高さ数十センチメートル程度のブロック塀が存在したことが認められる。

しかし、原告本人の供述によれば、原告及び三和建設は分筆前の八番三、八番四の土地を一体として分譲する計画を有していたこと、原告と三和建設が分筆前の八番三と八番四の土地を時期をずらして購入することになったのは、売主である須賀光男の税金対策のためであったこと、原告所有土地と八番六〇の土地との間にブロック塀を設置したのは、三和建設において、昭和五五、六年ころ被告らに八番三の土地を分譲するに当たって、宅地造成区画を明確にする趣旨であったこと、そこで被告らに対する宅地分譲が終了したのち、原告及び三和建設は右ブロック塀を撤去し、しばらく原告所有土地を建築資材置き場として使用し、八番六〇、八番五八、八番五七、八番五六の土地をそのための人、自動車の通行の用に供していたが、被告らから異議はでなかったこと、の各事実が認められる。

右各事実によれば、ブロック塀の存在によって、被告らの主張する三和建設の確約の事実を推認することはできず、この点についての被告大山本人の供述は原告本人のこれに反する供述に照らし、採用できない。

そうすると、その余の事実につき判断するまでもなく、被告らの右主張は理由がない。

6  以上によれば、原告の通行権の主張は理由がある。

二  次に、原告の下水道排水管設置の受忍請求について判断する。

1  一般に、袋地所有者が囲繞地所有者に対し、下水道排水管を設置することの受忍を求める請求権を有することは、下水道法一一条の趣旨からも明らかである。

《証拠省略》によれば、原告所有土地から公共下水道本管へ接続する下水道排水管を設置するには、主文二項記載の方法によることが相当であることが認められる。

そうすると、原告は被告らに対し、右下水道排水管設置工事を受忍すべき旨請求する権利を有するというべきである。

2  なお、被告らは、原告所有土地は建築基準法上の接道義務を満たしていないので、建物の建築が出来ないから、被告らは右設置工事を受忍すべき義務を負わない旨主張する。

しかし、証拠上、原告所有土地に一切の建物の建築が認められないとは認定できないから、被告らの右主張は理由がない。

3  以上によれば、原告の被告らに対する下水道排水管設置の受忍請求は理由がある。

第四結論

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 坂本慶一)

<以下省略>

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